墓じまいの費用は誰が払う?兄弟・親族で揉めないための分担ルール
(2026年8月27日 調査)
【結論】「誰が払うか」を決めた法律は、ありません
まず、いちばん大事な事実からお伝えします。
民法897条は、お墓や仏壇を「誰が受け継ぐか」は定めていますが、「その人が墓じまいの費用を払え」とは書いていません。
兄弟で何割ずつ、という決まりもありません。
つまり、法律を調べても答えは出ません。
「長男が払うのが決まりだ」「相続分どおりに割るのが法律だ」——どちらも、法律にそう書いてあるわけではありません。
だから揉めます。
この記事では、法律で言えることと言えないことをはっきり分けたうえで、実際に揉めないための順番をお伝えします。
法律が定めているのは「誰が受け継ぐか」だけ
民法897条は、こう定めています。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
日常のことばに直すと
お墓・仏壇・家系図は、預金や不動産とは別のルールで引き継がれます。
順番はこうです。
- 亡くなった方が「この人に」と指定していれば、その人
- 指定が無ければ、慣習に従って
- 慣習もはっきりしなければ、家庭裁判所が決める
引き継ぐ人が1人決まる、という構造です。
ここに大きな落とし穴があります
「引き継ぐ人」=「費用を払う人」ではありません。
法律は前者しか決めていないのに、話し合いの場では後者だと思い込まれる。ここが衝突点です。
裁判所の判断はどうなっているか
参考になる判決がひとつあります。
名古屋高等裁判所 平成24年3月29日判決は、生前の契約や関係者の合意が無い場合について、
- 追悼の儀式の費用は、それを主宰した人
- 遺体・遺骨の埋葬などの費用は、祭祀を承継した人
が負担する、という見解を示しました。
また、「相続人であるというだけでは、当然に葬儀費用を負担するわけではない」とも述べています。
ただし、これを墓じまいに広げてはいけません
この裁判は、葬儀・火葬・ご遺体やご遺骨の扱いをめぐる争いです。
墓石の撤去や区画の更地化といった「墓じまいの費用」を直接判断したものではありません。
最高裁の判例でもありません。
裁判所の公開情報を探しましたが、兄弟間で墓じまい費用の分担を直接判断した裁判例は確認できませんでした。
「判例では長男が全額負担と決まっている」といった説明を見かけたら、根拠を確認してください。
「遺産から出せばいい」は、そう単純ではありません
よくある提案が、「親の預金から出せばいいじゃないか」です。
ここも整理が必要です。
お墓・仏壇・家系図は、遺産分割の対象ではありません(民法897条が別ルールにしているため)。京都家庭裁判所の説明でも、祭祀の承継は本来の遺産分割手続では扱えない付随的な問題とされています。
では、墓じまいの費用を遺産から出せるのか。
「当然に出せる」と書いた法律の条文は、確認できませんでした。
墓じまいの費用は、多くの場合亡くなったあとに発生する新しい支出です。相続人の合意や、遺言・生前契約があるかどうかで扱いが変わります。
つまり、話し合いで決めるしかない領域です。
相続放棄をした人はどうなるか
「相続放棄したから、墓には一切関係ない」——これも断定できません。
祭祀の承継は、通常の相続とは別のルールです。相続を放棄したという事実だけで、祭祀承継者でなくなる、あるいはなる、という条文は確認できませんでした。
逆に「放棄したのだから必ず払え」という根拠も、確認できませんでした。
ご自身の状況が該当する場合は、専門家にご相談ください。 ここは一般論で結論を出せない部分です。
実際に揉めないための順番
法律に答えが無い以上、揉めるかどうかは進め方で決まります。
実際のご相談で、こじれるのは決まって「先に動いてしまった」ケースです。
ステップ1:金額を出す前に、話をする
見積書を持って行くところから始めない。
金額から入ると、「勝手に進めている」という受け取られ方をします。まず、お墓を今後どうするかという相談として持ち出してください。
ステップ2:全員に同じタイミングで伝える
知らされた順番が、そのまま感情の順番になります。
「なぜ自分だけ後から聞いたのか」は、金額の話より根が深くなります。同時に伝えるのが難しければ、少なくとも同じ日に伝えてください。
ステップ3:負担できる人・できない人を先に確認する
割り方を決める前に、払える額を聞く。
「3人だから3等分」と先に決めてしまうと、払えない人が「反対」という形でしか意思表示できなくなります。 反対の理由が金銭だと言えないまま、話が別のところで対立します。
ステップ4:決めたことを紙に残す
口約束は必ず食い違います。
- 誰がいくら負担するか
- お寺への支払いは誰が窓口になるか
- 遺骨をどこへ納めるか
- 今後の管理費は誰が払うか
特に4つめを決めていないと、墓じまいが終わったあとに、また同じ話になります。
それでも決まらない場合:家庭裁判所
誰が引き継ぐかが決まらないときは、家庭裁判所に決めてもらえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続の名前 | 祭祀に関する権利の承継者の指定(調停・審判) |
| どこへ | 調停は原則相手方の住所地の家庭裁判所。審判は亡くなった方の最後の住所地 |
| 費用 | 収入印紙1,200円(被相続人1人につき)+連絡用の郵便切手 |
| 主な書類 | 申立書、申立人・相手方の戸籍、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の戸籍、祭祀財産の目録など |
遺産分割の調停とは別の手続きです。
郵便切手の額は裁判所ごとに違うので、申し立てる裁判所に直接ご確認ください。
注意: この手続きで決まるのは「誰が引き継ぐか」であり、費用の分担そのものではありません。
よくある質問
Q. 香典を墓じまいの費用に充ててもいいですか。
香典は公的な給付ではなく、誰が受け取り、何に充てるかについての全国共通のルールは確認できませんでした。 関係者の合意なく当然に墓じまいの資金にできるとは言えません。先に話し合ってください。
Q. 葬祭費や埋葬料は使えますか。
健康保険の埋葬料(定額5万円)や、国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費は、お亡くなりになった際の葬祭・埋葬に対する給付です。後年の墓じまい費用を対象とする給付とは確認できませんでした。
Q. 長男だから払うのが当たり前だと言われました。
法律にそう書かれてはいません。 慣習として長男が承継してきた地域は多くありますが、承継することと費用を負担することは別の話です。話し合いの材料として、この記事をお使いください。
Q. 兄弟の一人が絶対に反対しています。
反対の理由を、金銭・感情・宗教のどれなのかで切り分けてください。 金銭なら分担で解決できます。感情なら金額を下げても解決しません。多いのは「相談されなかったこと」への反発です。
出典
- e-Gov 民法896条・897条・939条
- 名古屋高等裁判所 平成24年3月29日判決
- 裁判所「遺産分割調停」・家事申立添付書類一覧
- 厚生労働省「公的医療保険の給付内容」
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